吉田満美子 他

2009年6月1日

財団法人三友堂病院医学雑誌 Vol.9 No.1

症例報告

臨床心理士によるがん終末期患者に対する心理的アプローチに関する一考察-認知症とうつ傾向を有し、家族に在宅療養を拒否されたがん終末期患者の心理的変化-
Consideration of the psychological approach for a terminal cancer patient by a clinical psychologist -Psychological change of a terminal cancer patient with dementia in depression who was denied her home care by her family-

三友堂病院臨床心理室 吉田満美子
三友堂病院看護部 吉田美代子、安部弥生、大沼未希、平美紀、黒田美智子
三友堂病院リハビリテーション部 板垣光子
三友堂病院緩和ケア科 牧野孝俊、横山英一、川村博司
三友堂病院麻酔科 加藤滉
山形大学医学部麻酔科 加藤佳子

Key word:臨床心理士、心理的援助、緩和ケア、チームアプローチ、STAS-J

Mamiko Yoshida1), Miyoko Yoshida2),Yayoi Abe2), Miki Ohnuma2), Miki Taira2), Michiko Kuroda2), Mitsuko Itagaki3),Takatoshi Makino4), Eiichi Yokoyama4), Hiroshi Kawamura4), Akira Kato5), Yoshiko Kto6)

1)Department of Clinical Psychology, Sanyudo Hospital
2)Department of Nursing, Sanyudo Hospital
3)Department of Rehabilitation, Sanyudo Hospital
4)Department of Palliative care, Sanyudo Hospital
5)Department of Anesthesia, Sanyudo Hospital
6)Department of Anesthesiology, Yamagata University School of Medicine

要約

 当院において平成19年10月より臨床心理士が緩和ケアチームのスタッフとして活動を開始した。臨床心理士は、臨床心理学を学問的基盤に持つ心理職である。がん医療に従事している臨床心理士は全国的に少なく、職業的ネットワークも十分に形成されているとはいえない。また、がん医療を対象とする臨床心理学的ガイドライン等も整備されていないため、緩和ケアチーム内での役割を模索しながら活動している状況にある。臨床心理士が行う心理的援助は大きく分けて心理面接・心理カウンセリングと心理アセスメントからなっている。今回、認知症とうつ傾向を有し、さらに家族の援助が得られなかったため、在宅移行が困難であったがん症例に対して、臨床心理士が行った心理的アプローチについて報告する。なお、チームケアの評価として、Support Team Assessment Schedule(日本語版): STAS-Jによる検討も行った。
 症例は、緩和ケア病棟に入棟した胃癌・多発リンパ節転移の70歳代の女性で、在棟期間は61日であった。緩和ケア病棟入棟時の臨床心理士による心理アセスメントでは、長谷川式認知症スケールで軽~中程度の認知症の疑い、精神健康調査票では不眠やうつ傾向が中程度以上であった。入棟後、自分と同じ女性スタッフに羨望を主とした陰性感情を表出し、臥床していることが多く、毎日欠かさなかった化粧を行うこともなくなった。1週間後の臨床心理士の面接では「強い倦怠感」、「不眠」、「死への恐怖」、「自責の念」が認められた。そしてこれらの心理的症状が身体的症状の緩和を困難にしていると考えられた。その後、音楽療法士と理学療法士が介入し、心身のサポーティブ・ケアが開始された。徐々に、日常生活動作が改善し、在宅療養が可能となり、本人もそれを強く望むようになった。しかし、家族は在宅療養を拒否した。入棟1か月後、在宅療養の希望は依然かなえられてはいなかったが、気持ちは前向きになり、自分で化粧を行うようになり、面接では自分自身を冷静に客観的に述べ、心理的余裕が見られるようになった。亡くなる6日前、音楽療法士と一緒に歌を歌い、初めて笑顔を見せた。その後の面接で、病名をがんと知った後から、自分で『笑う』という行為を故意にしないようにしていたということを告白した。感情を素直に表出した瞬間であった。そして、それまでの辛さを患者とそこに立ち会った臨床心理士、音楽療法士も共有できた。心理的苦痛から解放されつつある状態となり、うつ傾向に明らかな改善がみられた。これは、臨床心理士による観察と面接などによる心理的アプローチがチームケアに結びつき、チームスタッフが傾聴・共感をもって寄り添い、相互の意思疎通が生まれた結果であると考えられた。STAS-Jによる評価でも、死亡直前期において苦痛も不安も悪化せず、臨床心理士が加わったチームケアが有用であることが評価された。

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原稿・資料提供 (財)三友堂病院医学雑誌編集委員会